先日、慢性便秘症について記載しましたが、同じタイミングで「便通異常症診療ガイドライン2023 慢性下痢症」も刊行されています。
下痢の定義
下痢は「便形状が軟便あるいは水様便、かつ排便回数が増加する状態」と定義されます。
排便回数が増加した状態は3回/日以上と定義されています。ただし、排便回数は個々の食習慣によって大きく変化するものであり、個々で認める正常回数よりも増加した場合に排便回数の増加と定義する考え方もあります。
慢性下痢症は「4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障をきたした病態」と定義されます。
慢性の期間について、急性下痢の原因として最も多い腸管感染症は、通常1週間、長くても4週間で改善することから、慢性の期間について4週間以上と定義されています。
慢性下痢症の分類
①薬剤性下痢症
抗癌薬、抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬、オルメサルタン、下剤など
②食物起因性下痢症
カフェイン、ソルビトール、アルコール、牛乳、脂肪酸など
③症候性(全身疾患性)下痢症
甲状腺機能亢進症、慢性膵炎、吸収不良症候群など
④感染性下痢症
赤痢アメーバ、腸結核、サイトメガロウイルスなど
⑤器質性下痢症(炎症性や腫瘍性)
潰瘍性大腸炎、クローン病、顕微鏡的大腸炎、大腸癌など
⑥胆汁酸性下痢症
回盲部切除後、胆嚢摘出後など
⑦機能性下痢症
⑧下痢型過敏性腸症候群
慢性下痢症の診断基準
慢性下痢症の診断基準は、「軟便あるいは水様便が4週間以上持続または反復している病態」です。
慢性下痢症の警告症状・徴候
- 予期せぬ体重減少
- 夜間の下痢
- 最近の抗菌薬の服用
- 血便
- 大量・頻回の下痢
- 低栄養状態
- 炎症性腸疾患や大腸癌などの家族歴
慢性下痢症を含む機能性消化管疾患から器質的疾患を区別するために上述の警告症状・徴候の確認が提案されていますが、現時点でこれら警告症状・徴候の有用性は明らかにされておらず、今後の検討が必要であるとされています。
慢性下痢症の鑑別診断における内視鏡検査の意義
「慢性下痢症に対する大腸内視鏡検査は器質的疾患との鑑別診断・除外診断において有用であるため推奨する」
「内視鏡的に異常がない場合でもリスクを勘定してランダム生検を行うことを提案する」
とされています。
慢性下痢患者のうち、17〜28%で内視鏡検査あるいはランダム生検で異常所見を認めるという報告があります。また、特に下痢型過敏性腸症候群との鑑別において、empiric therapy(経験的治療)で効果ない場合、警告徴候を有する場合、50歳以上では施行することが推奨されています。
さらに、一見して内視鏡的に異常所見がなくても顕微鏡的大腸炎や好酸球性胃腸炎、アミロイドーシスなどの生検が診断に必須な疾患との鑑別のため、生検リスクを勘定してランダム生検を加えることが推奨されています。
内視鏡以外の臨床検査については、問診や身体診察から基礎疾患や病態を考察し、必要となる検査を個別に判断して実施することを推奨するとされています。
前回と今回は慢性便秘、慢性下痢について、ガイドラインに沿ってまとめてみましたが、急性、慢性問わず便通異常があり、気になる場合にお近くの消化器内科を受診するようにされてください。